先日、美容室に行った時、隣の席のお客さんが美容師さんに、易経とDNAは繋がっているという話をしていました。私は美容室ではほとんど話しません。隣の方の声が大きく、聞くつもりがなくても全部耳に入ってきました。
その方は興奮をしながら、研究で分かったことだととても自信のある話しぶりでした。
易の64卦と、DNAの64のコドン。数が一致しているのは本当です。それでも私は、この2つが繋がっているとは考えていません。易を本質と原点から落とし込んできた立場から、なぜ64という数字がそろうのか、そこから何が言えて何が言えないのかを書きます。
易経とDNAの「64」は、何が一致しているのか
まず、何と何が一致しているのかを整理します。
DNAは、体の設計図です。4種類の文字だけで書かれた、とても長い文章だと思ってください。体の中では、この設計図がそのまま読まれるのではなく、必要な部分がいったん写し取られます。写し取ったもの(mRNA)も、A・U・G・Cという4種類の文字でできています。
この写しは3文字ずつ区切って読まれ、区切った1組が、たんぱく質を作るときにどの材料(アミノ酸)を使うか、あるいはそこで作るのを終えるかを指示します。この3文字1組を「コドン」と呼びます。
4種類の文字から3つを並べるので、組み合わせは4×4×4で64通り。
易の卦は、陰と陽の2種類の線を6本重ねてできています。2×2×2×2×2×2で、こちらも64通りです。
数が同じであること。ここまでは事実です。
易が作られた時代に、DNAを知る術はない
易が形になったのは、今から3000年ほど前。周という時代に作られたので、周易とも呼ばれます。DNAの構造が分かったのは1953年です。易を作った人たちに、DNAを知る術はありません。
ですから、易の中にDNAが解釈として入っていないと考えるのが自然です。後の時代に分かったものを、昔の体系に重ねて見ているだけで、後付けでしかありません。
64卦と64コドンを1つずつ対応させた表は、並べて当てはめれば誰でも作れます。対応表が作れることと、研究で分かったことは別です。研究で分かったと言えるのは、なぜ一致するのかが説明できて、それが確かめられたとき。美容室で耳にした話は、発見ではなく当てはめです。
64がそろう理由はシンプルです
では、なぜ数が一致するのか。答えはシンプルです。
易は、陰か陽かという2択を6回重ねています。コドンの文字は4種類ですが、数の上では、4種類は2択を2回重ねれば数え分けられます。それを3つ並べれば、2択は合計6回。4×4×4も2×2×2×2×2×2も、どちらも64になります。体の中で文字が2択ずつ選ばれているわけではなく、これはあくまで数え方の話です。
易は、陰陽という最小の区別を組み合わせて、世界のさまざまな事象を読む体系です。易の側から見れば、どこかに64と同じ構造が見つかるのは不思議なことではありません。
ただし、似た構造を見つけられることと、本質的に繋がっていることは別です。数学で説明できるのは、組み合わせの数が一致する理由まで。それだけで、易とDNAが同じ原理で成り立っていることにはなりません。
同じ理屈で、2択を7回重ねれば128、8回なら256。2の累乗は、どこかの何かと必ず一致する数です。一致して当然の数字がそろったことを、繋がっている証拠として扱うことはできません。
易と歴史の上で接点があるのは、DNAではなく二進法のほうです。18世紀の初め、数学者ライプニッツは、中国にいた宣教師ブーヴェ(白晋)との手紙のやり取りを通じて、宋代の邵雍に由来する卦の配列を知り、自分の考えていた二進法との類似に注目しています。1703年に発表した二進法の論文でも、易の卦に触れています。数字がそろったという話ではなく、記録に基づく接点です。
384で一致したなら、話は変わる
一致そのものに意味がない、と言いたいわけではありません。
易には、64卦の他にもう1つ大事な数があります。1つの卦は6本の線でできているので、64×6で384爻。易は、卦ごとの言葉とは別に、この384の爻1つひとつにも言葉を持っています。384は、易の中身から導かれる数です。
もし別の体系にも、その体系の原理から独立して384という数が導かれ、1つひとつの対応にも根拠があるなら、私は64の一致とは重みが違うと考えます。偶然そろいやすい数字がそろうだけでは、何も分かりません。それぞれの内側から出てきた数がそろい、中身まで対応していて、偶然では説明しにくいと確かめられたとき、初めて調べる価値が出てきます。
一致に驚いたら、なぜ一致するのかまで落とし込む
構造が一致していること自体は、私もすごいと思っています。ただ、一致する理由まで落とし込まないと意味はありません。
私が易を学ぶときに大事にしているのも、卦の意味を覚えることより、その成り立ちを自分の言葉で説明できるところまで落とし込むことです。易を鑑定でどう使っているかは易を立てるとはどういうことか|答えと、確かめることに、原理を押さえることについては占いが「なんとなく分かる」で止まる理由|原理と技法の違いに書いています。
原理が分かっていれば、64の一致を聞いても、それが当然の一致なのか、驚くべき一致なのかを自分で見分けられます。
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